灯台放送ファン アーカイブ

2008 年 1 月 31 日

島と岬の灯台めぐり

Filed under: 灯台の本 — admin @ 10:29 AM

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日本一の「島博士」本木修次さんの著書。ハート出版。

副題が「日本一周、ノサップから波照間まで」とあるよう、日本列島の端から端まで、233もの灯台への訪問記です。各灯台のスペックを詳しく知るための解説書ではなく、実際に訪問しての印象を中心に記述されています。

だいたい、灯台というのは地形的に「端っこ」になっている場所にあるため、辺鄙な場所や、離島などに設置されていることが多く、簡単に訪問できる場所ばかりとは限らないようです。この本の中にも、小船をチャーターしたり、けものみちのような道を分け入ったりという、訪問というよりも探検に近いような記述もたくさん出てきます。

私がつくづく感心したのは、著者の本木さんというのは、決してコレクター的なマニアではないという点です。時々見かける「JR全駅制覇」みたいなコレクター的なマニアは、駅が好きというよりも、チェックリストの塗りつぶしに快感を覚えるようで、一度経験した場所は、「もうそこは経験済み」ということで見向きもしないことが多いようなのですが、本木さんの場合、実に50年以上をかけて、辺鄙な場所の灯台にも「何度も何度も繰り返して」訪問されているのです。

灯台に対する愛情と熱意のなせる技なんでしょうね。

ただ、それぞれの灯台についての訪問記自体は、感情移入が強すぎて、少し引いてしまう人もいるかもしれません。ほとんどの灯台を「すらりとした美人」「かわいい娘っこ」「日本健児」などと擬人化しているという点もその1つです。
また、表現自体が例えば「帰り道はもう腹ぺこ、くたびれ。でも両側は絶壁の細い道、用心、用心。」というように、他人に読ませているのか自分に言い聞かせているのか不分明な記述になっているところが多々あるのも、引っかかる人は引っかかるかもしれません。

ただ、日本には本当にいろんなバリエーションの灯台があり、とんでもなく辺鄙な場所に設置されているということを、改めて認識させてくれる貴重な本です。もちろん、実際に灯台を訪問する際のガイドブックとしても役立つのも間違いありません。一読の価値ありです。

表紙の写真の灯台は、「新:喜びも悲しみも幾年月」にも登場した、水の子島灯台です。

2008 年 1 月 27 日

航路標識とは

Filed under: 航路標識全般 — admin @ 2:32 PM

海上保安庁の分類によれば、灯台も「航路標識」の1つの形態ということになっています。『航路標識』というとなんだかものものしい名前ですが、英語だとnavigation、要するに、針路を導いてくれるものということでわかりやすいですね。

ただ、IALA(国際航路標識協会)という、世界中の航路標識の標準方式などを定めている組織があるのですが、IALAをフルネームで書くと「International Association of Marine Aids to Navigation and Lighthouse Authorities」ということで、直訳すると、「航路標識と灯台に関する、海上交通のための国際機関」となり(変かな?)、航路標識と灯台は、仲間だけども別物、という扱いのようです。

とにかく、航路標識について説明しますと、航路標識は下記の4つに分類されるということです。
(1)光波標識(灯台や浮標:ブイなど)
(2)電波標識(ロランCや無線方位信号所など)
(3)音波標識(昔懐かしい霧笛など)
(4)その他(船舶通航信号所と潮流信号所)

詳しくは、海上保安庁交通課のページに載っていますが、これによると、日本の航路標識の数は5,570。この数字だけ聞いても、内容がよくわからないので驚きませんが、そのうち、「灯台」の数が3,337もある(2007.8月現在)というのを見るとちょっと驚きますよね?

日本の都道府県は47。そのうち海の無い8県を除くと39。海のある1都道府県あたり、80以上の灯台が設置されているということになります。ホントにそんなにあるのかな・・・・?当地千葉県も充分海に囲まれている県ですが、名前を聞いたことのある灯台はせいぜい10個くらい。大半の灯台はその名を知られることも無く頑張ってるんでしょうね。。。けなげだ。。。

遠方の局の受信方法

Filed under: 遠方の局の受信方法 — admin @ 1:19 AM

近隣の局(当地であれば八丈島、野島、犬吠埼など)の放送の受信には特にくふうはいりません。昼間でも受信できたりしますが、遠方の局(当地であれば宮古島など)の受信には少しくふうが必要です。灯台放送に限りませんが、ラジオで弱い電波の局を受信するときには5つの鉄則というのがあるようです。(私が勝手に5つの鉄則、と書いていますが、まあ、常識的なことかと思います)

(1)電離層と大気のご機嫌

中波で遠方の局を聞くには、大前提として、夜間に発生するD層といわれる電離層で中波の電波が反射されてくれないと話になりません。(昼間は近隣の局の「直接波」しか聞こえません)

ただ、この電離層は「均質一様」なものではなく、時間と共に変化するのはもちろん、太陽の活動状況や大気の具合によって大きく左右されます。ですので、アラスカの中波放送がクリアに入ってくるような日もあれば、北海道の放送さえ覚束ないという日もあります。

また、放送は聞こえているのに「バリバリッ」という空電が酷くて聞くに堪えないようなこともあります。ヘッドホンで聞いていて突然これをやられると耳が麻痺してしまいそうです。

これらについては基本は「運」ということになりますが、たまたまある日のある時刻に聞こえなかったからといってあきらめる必要はない、ということにもなります。日を変え、時刻を変え、また季節を変えて受信しているうちに結構いろんな局にめぐり合えるようです。

(2)受信ロケーション(受信環境)

  送信地の近くに住んでいるか、あるいは近くまで出かけていけば当然、弱い電波も強力に入ります。。。という屁理屈の話ではなく(もちろん地域は重要なファクターではありますが)、ラジオの置き場所、置き方が大変に重要なファクターであるという話です。まずは、電波を遮蔽するようなものが回りにないこと。次に、ノイズを発生するような電気製品が近くに無いこと。この2つを満たすような恵まれた環境であれば、あまり大したくふうをしなくても多くの局が聞こえます。

逆に、都心の鉄筋マンションの室内で、室内にはTVなど家電製品が山盛りといった環境では、灯台放送どころか地元の強力な民放でさえ受信が覚束ないことすらあります。そういう場合は、とりあえずはラジオを窓際に持っていく、ラジオの方向を変えてみて受信感度が最大となる方向をさがす、などが基本ですが、やはり外部アンテナを設置することが望ましいということになります。

(3)外部アンテナ

ラジオ単体の感度(内蔵アンテナによる感度)は、どんなに性能の良い高価なラジオでも限界があります。逆に安物のラジオでも、外部アンテナとつないでやることによって、感度は格段に向上します。とはいえ、感度はいくらでも高くできるというわけではなく、感度が「飽和」するほど強力なアンテナをつないでしまうと、ラジオのほうが混変調をきたしてしまい、例えば810kHzのAFNが1620kHzでも強力に聞こえ出す、などというようなことも起こるので注意が必要です。(混変調のことを、「お化け」ともいうようです)

ループアンテナ(からのピックアップ線)と接続する場合、ラジオに外部アンテナ端子があればそこにつなぐのが一般的でスマートですが、内蔵アンテナの回り、あるいは近くにピックアップ線を近づけたり離したりすることで、方法としては不細工ですが、簡単に感度の調整ができることもあります。

(4)ラジオ

ラジオは、当たり前ですが、1670.5kHzという灯台放送の周波数を受信できるスペックのものでないといけません。腕に自身のある人であれば、受信範囲が1620kHzくらいまでの「普通の」ラジオでも、バリコンのトリマーをいじって同調周波数範囲を変えてしまう、という荒業も使えるのかもしれませんが。。。

ラジオの選び方としては、感度は外部アンテナ次第でどうにでもなりますので、着目しないといけないのはもっぱら「選択度」ということになります。選択度の悪いラジオだと、東京周辺や名古屋周辺に住んでいる人には、灯台放送の周波数のすぐ近く、1665kHzに出ている東京マーチスや伊勢湾マーチスなどが混信してきます。

ただ、10万円以上もするような通信型受信機を揃えなくても、上記(1)~(3)までの条件が揃えば、1万円程度のラジオでも灯台放送を全局受信することは充分可能です。

(5)最後は、耳。

ノイズや混信が多い放送のなかから目的の放送を「聴き分ける」には、最後は自分の耳の力になります。灯台放送ではありませんが、VOLMETの気象放送や、伊勢湾マーチスなどの英語放送を聞くには「英語耳」の力も必要になります。

また、耳の力とはいえませんが、放送パターンや、灯台の固有名詞をあらかじめ知っておくことで、初めて聞いた人には「ヒシマ灯台」とか「イシマ灯台」にしか聞こえないアナウンスが、きちんと「見島灯台」と聞こえたりするから不思議です。

2008 年 1 月 20 日

灯台放送とは

Filed under: 船舶気象通報 — admin @ 11:10 AM

灯台放送とは、正式には船舶気象通報といい、北海道~沖縄にいたる全国29ヶ所の灯台から周波数1670.5kHzで放送されています。ただし、キャリア(搬送波周波数)は1669kHzですので、1669kHzで聞くのが良いようです。電波形式はH3Eとなっていますが(いますので?)AMで聞こえます。

毎正時、宮古島からスタートして徐々に太平洋岸を北上し、釧路まで行ったら今度は大瀬崎(長崎)に戻ってそこから日本海側を北上、北海道の焼尻島が終点。
24時間365日、休むことなくこの1時間サイクルを繰り返しています。

放送内容は灯台によって少し違いますが、風向と風速は全ての灯台。あとは灯台によって天気、視程、波、うねり、気圧などの情報が加わります。

詳しくは、海上保安庁交通部の「船舶気象通報」のページを参照してみてください。

送信出力は50W。大阪ハーバーレーダーにいたってはわずか10W。TBSラジオや文化放送は100kWですから、なんと2000分の1~1万分の1という小出力ですが、それでも結構良く聞こえるのは混信が無いからかもしれません。

実際の放送はこんな感じ(八丈島灯台の例):mp3(775KB)です。ノイズもなんだか波の音のようです(笑)。

ただし、規定の放送時刻になれば、全ての局がいつでも聞こえるというわけではありません。特に昼間は、電波が電離層で反射されてくれないので、遠方の局は聞こえません。夜間は、運よく、電離層の機嫌が良ければ1時間で29局の全てを聞くこともできますが、当地(千葉県)の私の受信環境だと、29局中28局は、夜になれば程度の差こそあれ毎日聞こえますが、「みやこじま」だけは、聞こえない日のほうが多いです。電波というのは不思議なものですね。。。

気象通報(NHKラジオ第2放送:気象庁)

Filed under: 気象庁の気象放送 — admin @ 11:10 AM

普通は、気象通報というとこの番組。NHKラジオ第2放送で放送されている気象通報ですね。

小学校(中学校だったかも)の授業で、この放送を聞き取って天気図を描く、という楽しい実習もあったような覚えがあります。今でもやってるのかな?
灯台放送などと違い、普通のラジオで受信できますし、なんといってもNHKなので、日本全国どこに行っても、よほどの山間部で無い限り聴取可能かと思われます。

毎日3回、
09:10~09:30(06:00発表分)
16:00~16:20(12:00発表分)
22:00~22:20(18:00発表分)
という時間帯で放送されています。

自動合成音声などではなく、NHKのアナウンサーがゆっくりと原稿を読み上げていきます。(でも、時々噛んでしまうようです^^;)
内容は、
(1)各地の天気:石垣島からスタートして北海道まで順に日本を北上しつつ、各地の風向、風速、天気、気圧、気温を読み上げていきます。稚内まで行くと、今度はロシア、韓国、台湾、中国、アモイ、香港、フィリピン各地の情報となり、そして父島と南鳥島、最後は富士山で締めになります。
(2)続いて船舶からの報告で、緯度・経度で示された地点の気象状況のお知らせです。
(3)漁業気象:日本近海、近隣諸国を含めた各地の高気圧、低気圧の位置と動きのお知らせです。
(4)最後が、等圧線の位置情報。3つほどの気圧について、同じ気圧になっている地点の緯度経度がどんどん読み上げられていきます。これをメモして記入することで、いかにも天気図らしい絵ができあがるわけですね。

灯台放送を受信できるラジオ

Filed under: 受信に適したラジオ — admin @ 11:09 AM

灯台放送は、1670.5kHzという、通常のAM放送とは少し離れた周波数で放送されているので、普通に売られているラジオでは聞けないことのほうが多いです。(たいていのラジオはAMの受信周波数範囲は、~1620kHzとかになっています) しかし、いくつか灯台放送を聞くことができるラジオもありますので、簡単にそれらをご紹介してみます。

■SONYのAMワイド対応機と、ワールドバンドレシーバーなど
最近ではラジオ事業からはほとんど手を引いているようにも見えるSONYですが、腐っても鯛というか、普通に家電量販店で買えるラジオで、灯台放送を聴くことができるラジオを作っているのはSONYがメインのようです。ソニーのラジオ検索のページで、「AMワイド(1710kHzまで聞こえる)」で抽出すると、18件(要するに18種類のラジオ)がヒットします。また、「AMワイド」とは銘打ってはいないものの、「ワールドバンドレシーバー(短波がメインのラジオ)」に分類されている5機種ほどのラジオも、1700kHz付近をカバーしているようです。

また、Panasonicの通勤ラジオでも「RF-ND150」「RF-NT850R」という2機種だけは、1710kHzまでをカバーしているようです。

大ざっぱに言うと、日本で普通に買える、「灯台放送が聞けるラジオ」というのはこれらの25種類だけ(そのほとんどは通勤ラジオという小さなタイプなので感度はあまり良くないと思われます)ということにもなります。また、ほとんどの機種の価格は1万円以上で、ホームセンターなどで1,000円前後で売っているようなラジオに比べるとかなり高いですが、いちおう、その中で一番安いのが、下記のICF-M260という機種です。

■SONY ICF-M260
icfm260.jpg希望小売価格は5,775円となっていますが、だいたい4,000円前後で売られていることが多いようです。機能はシンプルで、結構「手に馴染む」ラジオで私は好きです。が、ちょっと問題なのは「選択度(近くの周波数の放送との混信を避ける力)」が少し弱く、当地(千葉)では、1665kHzで放送している「東京マーチス(海上交通センター)」が強力なために混信が避けられないことです。当地だけの問題かもしれないですが。
また、周波数はデジタルチューニングで便利なのですが、9kHzまたは10kHz単位での選択しかできませんので、例えば「1670kHzだと混信が強いので少しずらして1671kHzで聞いてみよう」というようなくふうはできません。

■ラジデン
docomo1.jpg日本で(世界で?)唯一、AMラジオの聞ける携帯電話として発売され(てい)た、ドコモのラジデン。これが実は1710kHzまで入るスグレモノで、携帯電話の契約をしなくても、ラジオとして利用可能だそうです。

文字通り携帯には便利そうですが、ここまでコンパクトだと、AM受信のためのバーアンテナもさぞかし小さくて性能はイマイチなのでは?とも思います。ただ、私は持っていませんので、お持ちのかたは、一度お試しあれ。

■中国製ラジオ
実は今、世界中で注目を集めているのが中国製のラジオです。昔は中国製のラジオというと「安かろう悪かろう」の典型で、性能はSONYなどの足元にも及びませんでしたが、今、WRTH(World Radio and Television Handbook)や、PWR(Passport to World-band Radio)という定番の年間誌を見ても、世界のラジオ市場は今や中国製品によって席捲されつつあるようです。SONYなどの日本メーカーがラジオに力を入れなくなったせいもあるのでしょうが、今の中国製ラジオの性能は驚くほど向上しているようです。まあ、価格も決して安くないですが。

日本では、ショップでお目にかかることはまずありませんが、例えばワールド無線などを通じて、通販で入手することが可能です。私の愛用しているラジオもdegen社のDE1103というラジオですが、これは別途詳しくご紹介してみます。

やぎしり(北海道:2007.11)

Filed under: 北海道・東北 — admin @ 1:28 AM

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北海道の北西、焼尻島灯台から放送しています。

■通報内容:(毎時52分の状況)
神威岬灯台:波の高さ
積丹岬無線方位信号所:風向速気圧
焼尻島灯台:風向風速気圧

■出力:50W

■受信報告書宛先:留萌海上保安部交通課

■受信確認証の確認内容:氏名、証明日付。

牧場に隣接した灯台というのは珍しいですね。

南房総の灯台めぐり(1)

Filed under: 南房総の灯台めぐり — admin @ 12:46 AM

先日、南房総の沖ノ島灯台、洲埼灯台、そして野島埼灯台をたずねたときの記録です。

1:プラン
JR東日本が、館山周辺のバス券もついた「南房総フリーきっぷ」というのを発売しており、船橋からだと5500円。これはずいぶんオトクかな・・・と思っていろいろ調べていると、館山から各灯台へ行くバスの便というのが非常に悪い。特に平日だと絶望的だということが判明。また、今回行こうとしている沖ノ島灯台など、クルマがないとどうしようも無い場所のようなので、電車で行っても結局、館山駅でクルマを調達しないといけない。

逆に、今年(2007年)7月、館山自動車道と富津館山道路を結ぶ君津ICと富津中央IC間が開通。館山までクルマで一気に行けることになったということもわかり、結局最初からレンタカーを借りて行くことに。

2:館山到着
toudai1-1.jpg富浦ICは高速の富津館山道路の終着点。ここから127号線に入るのだが、まず驚くのが道路の両脇に並ぶやしの木。

なんだか別の国に来た気分になる。まず目指したのはJR館山駅。ここで噂のくじら弁当を調達。1日限定30個の販売で、11時頃に到着した時点で残り8個。なんとかセーフ。

3:沖ノ島灯台

沖ノ島というのは、館山の南西、海上自衛隊の航空基地から海に向かって伸びた砂洲の向こう側にある。普通のクルマで砂洲を渡るのは無理なので、いったんクルマを降り、くじら弁当を携えて沖ノ島まで歩く。

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島全体が鬱蒼とした森になっており、入ってしまうとあまり「島」という印象が無いが、森を抜けたところにとても可愛らしい灯台が建っている。プレートを読むと『初点昭和46年1月』とあるので、結構新しい。頂上には太陽電池パネルらしきものもある。

kujira.jpg沖ノ島全体は公園としても整備されているようで、ピクニック用のテーブルもそこかしこにあったり、森の中のトイレは太陽電池パネルの屋根で結構清潔。海辺のテーブルで大変おいしくくじら弁当を食させていただきました。

また、平日ということもあってか、私たち夫婦以外に訪問者は皆無。青色、というよりは藍色に近いくらい晴れ渡った空、青い海、白い灯台、緑の森。すばらしい目の保養になった。

2008 年 1 月 19 日

灯台守の恋

Filed under: 灯台の映画 — admin @ 8:51 PM


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フランスのブルターニュ地方に実在する、ル・ジュマン灯台を舞台にしたせつない物語。

1963年、アルジェリアからの負傷帰還兵、元時計職人のアントワーヌ(グレゴリ・デランジェール)が、新人灯台要員としてジュマン灯台に着任する。ブルターニュ地方というのはかなり排他的な土地柄であったようで、灯台守の人々や土地の男達からはずいぶん冷たいあしらいを受けてしまう・・というところから本編が始まる。

 政府が帰還兵のために用意してくれた選択肢は他にも財務局勤務など、ラクそうなものが色々あったにもかかわらず、アントワーヌが「好き好んで」最果ての地の灯台勤務を志願したというというのはアントワーヌの心の傷がなせる業だが、同時に、灯台というものが「心に傷を負ったものが行くべき場所」というイメージもあるのかもしれない。

調和の取れた田舎の生活、いわば感情の振幅があまり大きくない生活に慣れ親しんでいた人たちの中にアントワーヌという異邦人が入り込んだことが触媒になり、人々の感情の振幅が増大されてしまう。

その結果、それまで「心はひとつ。同じブルターニュ人」とお互いに思っていた人たちの中でも、異邦人を排除したい者たちばかりではなく、実は田舎の閉塞感に辟易していたことを自覚する者も出てくる。やがて、アントワーヌと友情を結ぶイヴォン(フィリップ・トレトン)、アントワーヌと恋に落ちてしまうマベ(サンドリーヌ・ボネール)は後者の典型だ。しかしイヴォンとマベは仲睦まじい夫婦でもあったのだ。

大変に繊細な映画で、ラフなストーリーを書いてしまうと興醒めかもしれないので、内容の紹介は以上にとどめる。もう少し詳しく知りたい人は実際に映画を見ていただくのが一番だが、2005年に日本で公開されたときの公式サイトを今でも見ることができるのでそちらを参照されたい。

とにかく驚くのはジュマン灯台の立地。なんと海の中に灯台だけがにょっきりと屹立しているのだ。船着場なども無く、要員交代は灯台からロープを垂らして行う。波風が強いときなどは、灯台に辿りつくことがすでに命懸けだ。(さすがに1991年からは無人化・自動化されたと映画の中で出てくる)

また、妙なところで興味を引かれてしまったのは、灯台守は休めない、気を抜けない仕事であると同時に日中の無聊を持て余す仕事でもあるという点だ。この映画ではイヴォンが勤務中に意味無く何十脚もの椅子を作り続けるシーンが出てくる。分刻みで刺激を求め続けることが多い現代人は、こんな環境に放り込まれると正常な精神を保つことが難しいかもしれない。

新・喜びも悲しみも幾歳月(映画)

Filed under: 灯台の映画 — admin @ 8:11 PM

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1986年の松竹映画、監督は前作と同じ木下恵介。主演は加藤剛と大原麗子。

前作が、生活感あふれるシーンが多いにもかかわらず全体にどことなく透明感が漂っていたのに対し、本作はリアルな現実感がある。

もちろんこれは前作の時代背景が戦前・戦中・戦後であり、現代人からすると別の世界の出来事であるかのような錯覚に陥るからであろうが、もうひとつ、登場する灯台の景色が左右している部分も大きいと思う。

前作では、石狩灯台とか女島灯台など、そこで生きていくこと自体がすでに大きな試練であるかのような灯台が強烈な印象を残した。過酷な生活に耐え切れずに亡くなってしまう婦人、戦争中に標的とされた灯台で殉職した人たちなど、「死」というモチーフもそこかしこに登場してくる。

しかし本作では、石廊崎、八丈島など、全体に明るいイメージの灯台が多いのだ。大原麗子の演じる「おしゃべりで明るい奥さん」もそのイメージを増幅している。大ざっぱにまとめると、本作は、前作ほどの厳しさは無く、「ちょっとしんみりするホームドラマ」ということになるのかもしれない。

ただ、灯台好きな人にとっては興味が尽きないシーンが多い。

石廊崎で加藤剛がデスクに向かって放送する灯台放送。「各局、各局、各局、こちらは、いろう、いろう、いろう。海上保安庁が、石廊崎灯台の、気象状況をお知らせします」という、聞き慣れた?フレーズが映画に登場してくるというのもちょっと嬉しい。

今でこそ大阪ハーバーレーダー以外は全て合成音声になっているが、昔は各灯台から、映画に出てきたような、こじんまりした放送施設を使って手作り放送していたのだろうなと思うと感慨深い。

また、豊後水道沖の孤島に聳える水の子島灯台。前作では遠景だけが登場し、船からそれを眺めるきよ子(高峰秀子)が夫(佐田啓二)から、「あんな灯台(に赴任するというのは)どうだ?」と問われて「ぞっとするわ」と答えていたが、本作では実際に水の子島灯台で仕事をしている男たちのシーンも登場する。

それ以外にも数多くの灯台が登場するが、前作で登場した灯台とほとんど重なっていないというのも色々と新しい発見ができて面白い。

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